2023年4月、「マンション長寿命化促進税制」という新しい制度が創設されました。
しかし、なぜこの制度ができたのか、メリットは何か、申請要件や必要なものなど、活用方法が分からない方も多いのではないでしょうか。
そこで、マンション長寿命化促進税制の内容と、申請方法について解説します。
マンション長寿命化促進減税とは
老朽化したマンションでは、居住者が高齢化している、建築費が高騰しているなどの理由で、工事の積立金が不足している場合があります。
区分所有者の高齢化により、管理組合との修繕工事に関する合意形成が困難であったり、積立金の捻出が困難であったりするマンションが多いです。
適した大規模修繕工事が実施されないと、生活の弊害につながることもあります。
例えば、「建物が廃墟のようになり、公費で取り壊さなければならなくなる」「外壁が剥がれて事故を起こす」といった問題が生じる可能性があります。
そこで、2020年度税制改正大綱にマンション長寿命化促進税制が盛り込まれました。
一定の条件を満たしたマンションで修繕工事を行った場合、翌年度の固定資産税が減額される制度で、管理組合の合意も得られやすくなるでしょう。
マンション長寿命化促進減税の導入背景
マンション大規模修繕では「マンション長寿命化促進税制」を利用すると固定資産税が減税されるメリットがある制度ですが、なぜ導入されたのでしょうか。
ここでは、マンション長寿命化促進税制の同丹生背景として3つの理由を挙げて紹介します。
修繕工事が必要な高経年マンションが増加したため
マンションの安全性・長寿命化には、修繕を含めた適切な建物管理が必須です。
十分な管理が行われていないと、建物の老朽化が進み、床や壁の倒壊、一部の崩壊を引き起こし、居住者や近隣居住者の生命に危険を及ぼす恐れがあります。
国土交通省によると、2021年末時点のマンションストック数は約6859万戸。
築40年以上の物件は115.6万戸といわれ、20年後には425.4万戸に増える見込みです。
つまり、大規模修繕工事が必要な老朽マンションが急増しています。
合意形成が難しい事例が増えたため
ひとつの建物に複数の所有者がいるマンションは区分所有建物と呼びます。
区分所有建物では、マンションの大規模修繕を行う際に、区分所有者で構成される管理組合の合意形成を得なければなりません。
しかし、近年、区分所有者の高齢化に伴い、管理組合総会に参加する方も減っています。
施設への入居や入院などで総会に欠席し、収入の減少などを理由に大規模修繕が不要と考える人が増えるなど、合意を得られないケースも珍しくありません。
修繕積立金の不足トラブルが多発しているため
マンション長寿命化促進税制が創設された背景には、築年数の古いマンションに修繕積立金が不足しているケースが多いことがあります。
国土交通省が実施した「平成30年度マンション総合調査」によると、修繕積立金のストック状況は以下のとおりです。
現在の修繕積立金が計画に対して不足している 34.80%
現在の修繕積立金が計画に対して余っている 33.80%
不明 31.40%
全体の34.8%のマンションが「現在の修繕積立金が計画に対して不足している」と回答しており、少なくとも3件に1件は修繕積立金が不足していることが判明しました。
また、「わからない」と回答した31.4%のマンションのなかにも修繕積立金が不足している物件がある可能性があり、実際には34.8%以上のマンションで修繕積立金が不足している可能性があります。
国は修繕積立金が不足しているマンションが多いことを問題視し、2021年9月には「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定しました。
加えて、上記調査は2018年時点のものですが、近年の建築費の高騰により、2018年調査段階よりも修繕積立金が不足しているマンションが増えている可能性も考えられます。
修繕積立金が不足するマンションが増えれば、寿命を延ばすための大規模修繕を適切に行えない物件も増えることが予想されます。
適切に大規模修繕が行われないと、外壁が剥落して建物が廃墟と化し、周辺地域に大きな悪影響を与えかねません。
そこで、全国のマンションが適切な修繕積立金を確保し、大規模修繕を適切に実施できるよう、管理組合の合意形成を支援できる施策が求められており、マンション長寿命化促進税制が創設されたという背景があります。
マンション長寿命化促進税制は利用したほうがいい?
マンション長寿命化促進税制を利用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
制度について調べ、申請するのは手間がかかるため、利用すべきかどうか迷う方もいるでしょう。
ここでは、マンション長寿命化促進税制を利用するメリットを解説します。
固定資産税が減額される
マンション長寿命化促進税制を利用する最大のメリットは、竣工翌年の建物の固定資産税額が1/6~1/2に軽減されることです。
かお、減額率は市町村によって異なるため、詳しくはマンションの所在地を管轄する市町村に確認しましょう。
例えば、東京23区の場合、減額率は1/2であるため、竣工翌年の固定資産税額が10万円の場合、1/2の5万円が減額される計算です。
軽減対象は建物部分だけで、土地固定資産税と都市計画税は軽減されません。
また、100m2相当の住宅部分が対象となり、店舗・事務所は対象外です。
減税額はどのくらい?
控除額を知りたい場合は、課税明細書を確認しましょう。
固定資産税を納めている人(家屋や土地などの固定資産を持っている人)には、4月から6月頃に自治体から固定資産税の納税通知書と同時「課税明細書」が送られてきます。
課税明細書には、土地や家屋の所在、地番、価格などが記載されているため、建物編に該当する家屋編から固定資産税の額を確認することが可能です。
マンションすまい・る債の利率が上乗せされる
制度で直接メリットを得られるわけではありませんが、制度の利用条件のひとつ、「管理計画認定マンション」になると、「マンションすまい・る債」の金利上乗せが受けられるメリットがあります。
住宅金融支援機構の2023年度募集要綱によると、普通社債の金利(10年満期の年平均金利(税引前))は0.475%ですが、管理計画認定を受けたマンションの社債は「マンションすまい・る債」の金利が「0.525%」に引き上げられます。
マンション修繕積立金の運用に「マンションすまいるボンド」を活用している管理組合も多いため、金利上乗せにメリットを得られる人も多いでしょう。
管理組合の負担が軽減される
修繕積立金の値上げは区分所有者の経済的負担を増大させるため、議論がスムーズに進まない可能性があります。
固定資産税の軽減という区分所有者全員のメリットで合意が得られれば、管理組合の負担も軽減できます。
マンション大規模修繕で固定資産税の減額を受ける方法
どのようなマンションでも、固定資産税が減額されるわけではありません。
マンション大規模修繕で固定資産税の減額を受けるためには、一定の条件を満たし、認定を受ける必要があります。
ここでは、固定資産税の減税を受ける方法、条件を紹介します。
減税の条件を満たす
対象となるマンションの条件は次のとおりです。
過去に一度でも適切な長寿命化工事を実施していること
長寿命化工事に必要な積立金を確保していること
積立金を一定以上積み立て、管理計画の認定を受けている
1回目の大規模修繕工事は対象になりません。
2回目以降の大規模修繕工事は2020年4月~2020年3月までに完了する必要があります。
期間内にマンションの大規模修繕を検討するとよいでしょう。
期間内に長寿命化工事を実施・完了する
大規模修繕工事は、2020年4月1日から2020年3月31日までに完了する必要がありますが、着工日は関係ありません。
そのため、2020年3月31日以前に着工した工事でも、期間内に工事が完了すれば対象となります。
マンション管理計画認定制度を受ける
最も重要な条件は、積立金の増額と経営計画の認定を受けていることです。
2022年4月に始まった「マンション管理計画認定制度」に基づき、自治体が基準を設けています。
マンション管理の適正化を推進し、質の高い管理が行われているマンションが不動産市場で適正に評価されるよう促すことが目的です。
マンション管理適正化推進計画を策定している都道府県に所在する、管理組合のあるマンションが対象です。
管理組合が申請し、自治体がマンションの管理規約や会計、長期修繕計画などの審査が行われます。
一定の基準を満たせば認定を受けることが可能です。
なお、認証の有効期間は5年間です。
認定手数料は自治体ごとに異なります。
工事完了から3ヶ月以内に申請書類を提出する
減税措置は、自動で適用されるわけではないため注意しましょう。
固定資産税の減免を受けようとする区分所有者は、建築後3ヶ月以内に市区町村に届け出なければなりません。
マンション管理士などが、「大規模修繕で長寿命化を図るものである」ことを証明する書類とともに申告書を提出します。
マンション大規模修繕固定資産税まとめ
支払わなければならない固定資産税が軽減されるのは、マンションオーナーにとって大きなメリットです。
期限が決められた特例措置であるため、大規模修繕を検討している場合は特例措置の利用がおすすめです。
まずは、マンションが減税対象の条件をクリアしているかどうか、確認してみる必要があります。
固定資産税は、2020年3月31日までに工事が完了した場合に特例措置で減税できるため、大規模修繕工事を検討している管理組合は早めの利用を検討しましょう。